映画「白爪草」のネタバレ感想とか考察とか


迷いましたが見に行って正解でした。
池袋で見ました。

他の方の考察は一切見てないのでどんなことを書いているか分かりませんが、
他人の思考をトレースするのは楽しいので時間と余力があったら巡ってみます。

ネタバレ思いっきり入ってます。
同じく白爪草を観覧した皆さまを対象にしています。


白爪草

サスペンスです。

Vtuberの電脳戦士シロが姉妹である蒼と紅を一人二役で演じ、
花屋を舞台に彼女らの過去を探っていくというものになります。

映画cubeやsawに見られる、1セットで延々とカメラを回していく低予算系映画だと思います。
そのカメラなんですが、カメラ回しが実写の映画みたいですごく自然かつ迫力ある物になってるんですよ。
びっくりしました。人間いらないですね。

以下、感想や考察になります。
もしかしたら後日加筆あるかもしれません、何分酔いながら思い出して書いてるものです。

本作は多重人格が題材である

ほとんど見た目が同じ双子の姉妹、更には心理カウンセラーが登場した段階で予想はしていましたが、
本作は明らかに多重人格を題材とした作品です。

アイデンティティという多重人格もので有名な映画の名作が存在しますが、
本作はあのテイストに若干近いかなと思います。
まだ見てなかったら絶対面白かったと言わせる自信があるので是非見てください。

根拠

心理カウンセラーである桔梗先生は「刑務所でのカウンセラー」を行っています。
1カットですが、あえて映した意図を考えたらまず間違いなく情報になりえるものでしょう。

上記カットと同時に、紅と桔梗先生が記憶を植え付ける手法を話し合っていたのも重要な情報です。
紅は「出所した」「殺害を打ち明けた」と話しているので明らかに刑務所で会っていましたが、
蒼は「花屋で会った」と話しており、桔梗先生が職場としている刑務所でのカウンセラーとは辻褄が合いません。
これは、前述の情報と合わせて"実際には刑務所で会っており、蒼には花屋で会ったという偽の記憶が植え付けられている"と解釈できます。

加えて、本作では「入れ替わることは容易である」という概念が繰り返し発言されています。
これに対し、序盤で紅が「この6年でお互い変わった」という旨の発言がなされており、
久々に会ってすぐ分かる程度の変化があったのに、2人が入れ替わって生活することが本当に容易なのか?という疑問が湧きます。

また、後述しますが、最終盤では自殺したはずの蒼人格が客を出迎えており、
現実に存在する双子ならまずそんなことはありえないというのも一因です。

花屋

あの花屋の部屋はいわば人格同士が交流する精神的な場であり、
あの場を制圧したものが物理的な肉体の主導権を得ると捉えました。

終盤で紅が心理カウンセラーに電話をかけたが繋がらなかったという1シーンがありましたが、
新しく生まれた蒼が主導権を握り、紅の6年あるいはなんらかの期間の再幽閉を示唆している物だと思います。
あの瞬間、蒼に再び主導権を握られているのです。

主人やアルバイト、または客人が一切姿を見せないというのが、
個人的には実際の物理的にある空間とは別の空間を示唆してると思うんですよね。

蒼人格、紅人格

蒼と紅にはそれぞれの個性があります。

蒼は半ば殺害を楽しんでいる人格です。
紅に指摘されたように、どう考えてもネジの飛んでいる思考をしています。
自分が死ぬなどとはまったく考えません。

紅は罪を自ら受け入れる人格です。
他人を殺すくらいなら自殺でいいとする、蒼人格にとって都合のいい人格です。

人格の入れ替え

作中で言及されている通り、容易に人格を入れ替えることができます。
ただし、瞬時に入れ替わるわけではないと考えていますし、文字通りに"容易には"入れ替われないでしょう。

作中最終盤で、紅人格とされていた人間が蒼人格の落ち着いた声で応対しています。
序盤段階では紅人格であったものが、蒼人格により積み上げられた殺人の証拠を抱えながら精神的に摩耗していき、徐々に蒼人格に移行したものと考えられます。
耐えきれなくなった紅人格は少しずつ蒼人格に変化し、限界を迎えたところで別の紅人格を生成するのです。

俺の予想では最終盤で訪れた客というのは紅人格ではなく、ただ普通の客だと考えています。
しかし、これから蒼人格に殺されるはずの客でしょう。
殺しの手段から顛末までを日記に記されるだけのただの客です。

白詰草

蒼人格は殺しを楽しんでいる側面こそ存在しますが、人間らしく引け目を感じている部分もあります。
その引け目が限界を迎えると紅人格を生成し、あらゆる手段で紅人格に殺人の責務を負わせて一旦退場します。

本作で物足りないと思う一因に、蒼人格が白詰草を白爪草と勘違いしている原因がまったくなく、
桔梗先生が「心に爪痕がある(これ申し訳ないけど観覧から時間経ってて正しく思い出せない)」と言及しているのがわずかに関連性を認められるってだけなんですよね。
紅人格が蒼人格と違って、言うほど花が好きではないというのが勘違いの理由なんだろうか?

本作ラストの紅人格が蒼人格に成り代わったという演出に存分に利用されてる一方で、
その根拠が希薄なのがなんとももったいないなぁと思うところです。
(実際は立派な根拠があって俺が気付いていないだけかもしれませんが)

雑感

面白かったという感情を認めざるを得ません。

どうせVtuberのファンムービーだろとしか思ってなかったんですが、
別にVtuberである彼女のバックグラウンドを理解する必要は全くなく、これ単体で作品として十分に存在できるものでした。

多重人格ものというのは映画界隈では消費しきったもので、
本作にも真新しさを認められる点はそこまでありませんが、演出もさながらカメラ周りも実写と見まごう迫力で、是非スクリーンで味わってほしいと言わざるを得ません。

期待を裏切る良作でありがたいと思うばかり。